冬季は色彩の刺激が少なくなるために、“想うことの多様性”と“受け入れる寛容な心”が表現の領域を広げることとなる。階調(gradation)も表面的な反射の質感だけではなく、艶や優美、詫び寂びといった閑寂枯淡な美しさを演出してくれる。それはまるで絹地に和染色が滲み入るかのように伝わってくる感覚だ。そして階調は周辺に漂う空間の存在も誘う。周囲に潜む温度感から写真では見えない風音の存在、さらには触感までも感じさせてくれることがある。色や形といった視覚的物体がそこにあるだけの撮影ではなく、その先に見える精神の深まりに真意を感じているのが実際だ。冬の光景は淡白な味わいであっても、すべての素材が階調をともない馴染み、形態を成すことで表現の極みが生まれると考えたい。自然を見つめることで生まれる美意識は肌で感じる感覚が根となっているので、撮影では具体的な言葉では説明のつかない冬の虚実にただひたすら魅了された。その真意を描くにはもう少し時間が必要だが、繊細な階調なくして自然表現の“染域”は描けないと思っている。
風景を主に撮影しているのでラージフォーマットのGFXをよく使うが、センサーサイズAPS-Cにして4020万画素という驚異的な解像力に支えられたX-T5を持つことで、機動力はもとより画質の安心感がさら強まった。機材の充実はストレートに撮影時の自信に繋がるものなのだ。比較的に表情が乏しい今回の冬の撮影では、何気ない階調やふとした空間美を探す旅となったが、X-T5の機能性にはずいぶん助けられ、表現を確実に残すことの楽しさが再認識できた。
記
辰野清写真展 「染域 gradation of winter」
辰野清
(敬称略)
2023年3月1日(水)~2023年4月24日(月)
10:00~18:00(最終日は14:00まで)※ 毎週火曜休館
※当面の間、新型コロナウイルス感染防止などの観点より
営業時間を短縮とさせていただきます。
※写真展・イベントはやむを得ず、中止・変更させていただく場合がございます。
予めご了承ください。
富士フイルムイメージングプラザ大阪 ギャラリー
■辰野 清(たつの きよし)
1959年生まれ、長野県在住。インテリアデザイン会社を経営後、2005年に写真家としてフリーに。
隔月「風景写真」誌フォトコンテスト年度賞1位を2回受賞(1998年2002年)
第11回前田真三賞受賞「渓水~瀬音が聞こえる」(2003年)
写真集「凛の瞬」「余韻」(風景写真出版)
著書「超実践的フィルターブック」(日本写真企画)など多数。写真展「渓水~瀬音が聞こえる」「和の香」「森の呼ぶ声」「凛の瞬」「余韻」「瞬奏」など多数。
独自の撮影論による豊かな構成力と、詩情溢れる作風で日本の風景表現の物語性を追求している。また写真講師としても多くの風景写真家を育成している。コンテスト審査員、写真誌寄稿、講演会講師、写真教室講師、カメラメーカー商品企画の監修、カレンダー、撮影ツアー企画など幅広く行う。
(公社)日本写真協会会員(PSJ)
日本風景写真協会指導会員(JNP)
日本写真家連盟常任講師(PFJ)
FUJIFILM・アカデミーX講師
自然奏フォトグラファーズ主宰・常任講師
カラー 約30点(予定)
Ⓒ辰野清
Ⓒ辰野清